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梶山季之『せどり男爵数奇譚』

『せどり男爵数奇譚』は、笠井菊哉が主人公として登場します。

『ビブリア古書堂』の登場人物の中に笠井菊哉という人物が登場しますが、これは、『せどり男爵数奇譚』からとられています。

 

『せどり男爵数奇譚』は、一九七四年に『オール讀物』1月号 から 6月号に連載され、同年、桃源社版から全六話が収録され出版されました。短編が六話構成です。

「せどり(背取、競取)」という言葉が広まったのは本作の影響だと言われています。
全六話のサブタイトルは麻雀の役からとられています。

 

第一話 色模様一気通貫〜第五話までは、面白く読めたが、第六話は、いかにも怪奇小説といった感じでグロテスクな表現も多くありました。個人的に第五話までで良いかも。

 

本記事は、『せどり男爵数奇譚』に登場する古書の逸話を集めています。

色模様一気通貫

「芋繁」とは、下谷御徒町で焼芋屋を渡世としていた奥村繁次郎と云う人物で、蔵書印に芋屋の行燈を型どり、『このぬしいも繁』と云う凝った印鑑を捺していたことで有名な男だ。

「芋繁」蔵書印(「蔵書印データベース」による)参照先*1

http://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/0006686.jpg?log=true&mid=6686&d=1544585507376

 

和綴本『京すずめ』は、寛永年間に出版されたもので、六冊一組になっている。

 

日本最古の図書館は芸亭(うんてい)であった。
奈良朝の末期、石上宅嗣なる人物が集めた写本を、学者に限って閲覧を許したのがその嚆矢である。
古来、こうした書物を集めることは、時の権力者でなくては出来なかった。
平安朝の藤原頼長は、保元の乱を引き起こした悪党だが、濠をめぐらし、高い土塀を書物の廻りに築いていたと云う。
いまも横浜に残る金沢文庫は、鎌倉時代、北条実時が称名寺につくったものだ。
戦国時代には、後陽成天皇の勅版として、活版技術が生まれ、徳川家康は駿河版をつくり、文教政策に貢献したのであった。

 

嵯峨本『光悦謡本』のようである。
この嵯峨本と云うのは、角倉素庵、元阿弥光悦らが、関東に対抗してつくったもので、いわゆる道楽出版の一つに数えられていた。
光悦が、自筆の版下で活字をつくったがために、光悦本の異名もある。
とにかく造本の粋を集めた芸術書として、定評のある古書であった。
なかでも光悦本『謡曲百番』は、百冊あって、昭和五年八月、徳川家の旧家・大多喜家の売立のさい発見され、神田の一誠堂が二千円で落としたと云う逸品である。
また、同じく光悦本『平家物語』二十五冊も五千円ぐらいの値をつけていた。

 光悦謡本は、法政大学の能楽研究所のデジタルアーカイブから閲覧可能です。

「光悦謡本」

法政大学能楽研究所 能楽資料デジタルアーカイブ 1.謡本

 

とくに全集ものは、一冊欠けても、値打ちは半減するのだった。

 

ききめとは入手困難な欠本のこと。

古本屋に符牒(「日本の古本屋」 による)参照先

*2

キキメ:全集などの揃もので、とくに流通量が少なく、古書価も高価な巻。そこだけ持っていれば、あとは自然に集まる。

半狂乱三色同順

熱海にある「スコット」には、志賀直哉、広津和郎、高見順と云った文壇の諸先生が、よく通われていたらしく、むかしから美味しい料理を出す店として有名である。

スコット 旧館
0557-81-4460
静岡県熱海市渚町12-6

https://tabelog.com/shizuoka/A2205/A220502/22000011/

スコット 旧館
〒413-0014 静岡県熱海市渚町12-6
3,000円(平均)2,500円(ランチ平均)

 

 『ふらんす物語』は、博文館から、明治四十二年三月に発売される予定であった。
当時は、内務省の検閲制度があり、製本にかかる前に、内容を提出しなければならぬ規定であったらしい。
ところが、内務省に提出すると、その日のうちに発売禁止を命ぜられ、押収となったのである。
だから初版本ながら、製本し、市販される余裕もなく、発禁――という世にも珍しいケースとなったのだった。
発禁対象になったのは、戯曲の「異郷の恋」と短編「放蕩」の二編である。
古本業界では、この『ふらんす物語』は、日本に二冊しかないと云われていた。一冊は内務省納本分を、秦豊吉氏が譲り受けて所蔵し、もう一冊は、作者である永井荷風自身が愛蔵しているということだった。
しかし、戦後、数部ほど市に出た。
昭和二十九年にも、一冊、古本市に出て、3万5千円だったかでセリ落とされている。
みんな自家装丁の私蔵版であった。

『ふらんす物語』は、戯曲「異郷の恋」と短編「放蕩」 二篇を省き、さらに改訂を加え『新編 ふらんす物語』は刊行された。

「放蕩」は、発行許可本『新編 ふらんす物語』では「雲」と改題されて、本来にあった文章もかなり削除されていた。

現在は、『ふらんす物語』は、文庫本だと岩波文庫新潮文庫から刊行。
岩波文庫『ふらんす物語』は、発禁になった初版本を再現したもの(但し仮名遣いは現代仮名遣いに変更)です。

これに対して、新潮文庫本『ふらんす物語』は、基本的に大正年間に刊行された(つまり戦前の当局が出版を許可した)本に基づいています。

ふらんす物語 (岩波文庫)

ふらんす物語 (岩波文庫)

 
ふらんす物語 (新潮文庫)

ふらんす物語 (新潮文庫)

 

 

愛書家には、時として書物破壊症と云うのか、狂人じみた行動をとる者がある。
ビブリオクラストと呼ばれているが、他人にその本を渡したくないばっかりに、その本を破損するのだ。
本の扉、口絵、奥付け、蔵書票など切り取ったりする不徳義漢は、この書物破壊症であろう。

イギリスの書物狂が、長年、自分の所蔵本を、世界でただ一つ自惚れていたところ、パリに同じ本を持っている人物がいると気化されて逆上した。
彼は大金を懐に、英仏海峡を渡り、そのパリの蔵書家の許を訪れた。
そして一千フランから二万フランまで値を吊り上げて、件の書物を譲り受けると、直ちに暖炉の中に、その本を投げ込んでしまったと云う。
相手が驚いて、それを止めようとすると、イギリス書物狂は、
「これで私の本は、世界で唯一の貴重本になったわけです」
と、哄笑したのだそうな。
愛書家も、高じると、そう云う心理になるものらしい。


桜満開十三不塔

シェイクスピア『フォリオ』初版本…約750冊発行されたが、その3分の1程度しか現存していない。現存が確認されているファースト・フォリオの数は234冊。

水無月十三么九

キリシタン版『コンペンジューム・スピリチュアリス・ドチェリーネン(精神修行の要領)』
1631年にロンドンで出版された『姦淫聖書』  

 

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)