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中島敦『文字禍』~あらすじを読む~

あらすじ

毎夜、図書館でひそひそと怪しい声がしている。
治世第二十年目のアシュル・バニ・アパル大王は、碩学ナブ・アヘ・エリバ博士に事の真相をについて調べるように命じる。

文字の霊はいるのだろうか? 碩学ナブ・アヘ・エリバ博士は考え始める。
ナブ・アヘ・エリバ博士は、文字を見ていると、ゲシュタルト崩壊が起きて、文字の霊というものがいると認める。
博士は、街中で最近文字を覚えた人に声をかけて、文字を知る以前に比べ、何か変わったことがあるかを訪ねまわった。そして、文字についての害を証明する。博士は、文字とは物の魂の影ではないかと考える。
博士は、知り合いの書物狂の老人について考える。老人は、文字の霊の犠牲者であった。
アシュル・バニ・アパル大王が、病に罹ったとき、青年の一部が不合理な医師の行動に不信の目を向ける。それを目の当たりにし、博士は青年が合理主義に落ちていくのは、文字の霊がそうさせたんだと思う。
ある日、若い歴史家(あるいは宮廷の記録係)のイシュデイ・ナブが博士に文字の正体とは何かを質問する。
博士は懸命に説くが、話し終わったとき、文字の霊の威力を賛美している自分を省みて、文字の霊にたぶらかされていることを知る。
博士は、文字の霊の研究を続けていることへの生命の危機を感じるようになる。怖くなり、研究報告を纏め上げ、アシュル・バニ・アパル大王に献じた。大王はこれをみて機嫌を悪くする。博士は即日謹慎になる。
その数日後に、大地震によって、自家の書庫の中で圧死した。

そもそも文字とは何なのか、作者・中島敦の内面から考える鋭く、冷静な考察が冴えわたっている。

注釈

埃及(エジプト)

埃及人は、ある物の影を、その物の魂の一部と見做しているようだが、文字は、その影のようなものではないのか。

奸猾(かんかつ)悪賢い,狡猾である

それも文字の霊の媚薬のごとき奸猾な魔力のせいと見做した。

傴僂(せむし)背骨が弓なりに曲がり、前かがみの体形になる病気。

文字の精は、また、彼の脊骨をも蝕み、彼は、臍に顎のくっつきそうな傴僂である。

碩学(せきがく)学問が広く深いこと。そういう人。大学者。碩儒(せきじゅ)。

碩学ナブ・アヘ・エリバはこれを聞いて厭な顔をした。

讒謗(ざんぼう)人をあしざまに言うこと。人を悪く言うこと。

文字の霊が、この讒謗者をただで置く訳が無い。

夥しい(おびただしい)

壁が崩れ書架が倒たおれた。夥しい書籍が――数百枚の重い粘土板が、文字共の凄まじい呪の声と共にこの讒謗者の上に落ちかかり、彼は無慙にも圧死した。

 

中島敦 (ちくま日本文学 12)

中島敦 (ちくま日本文学 12)