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小山清『落穂拾い』 ~あらすじを読む~

あらすじ

冒頭で、出来れば早く年をとってしまいたい、という「僕」は、好きだった人のことを語り始める。

僕は、いつも、本を読んだり散歩したりしてる内に日が暮れてしまう。
僕が外出から帰ってくると、F君からハガキが来ていた。F君は、かつて北海道の夕張炭坑に一緒にいった友人である。
夕張は、寂しい処だった。僕はそこで心細い困難な月日を送ったという以外、格別なことはなにもなかったのだが、僕は郷愁を感じている。
そして、夕張に残ったF君に思い馳せる。

私の住む下宿の隣の家には毎日本を読んでいる青年がいる。
大抵いつもひとり青年が机に向っている姿が眺められる。そしてそのさまが僕の眼を惹ひく。しかし僕と青年には何の触れ合いもなく、これからもないであろう。

僕はいま自炊の生活をしている。
そして、一日中誰とも話さずに過ごす事もある。遊びに出かけるような処もない。
僕の家から最寄の駅へ行く途中に芋屋がある。
爺さんが買出しに出かけて担いできたやつを、婆さんが釜で焼いて売っているのだ。僕は人に会いたくなると、ときどきそこへ出かけて行く。

そんな僕は最近一人の少女と知り合った。
少女はお勤めには向かないと自分で「緑陰書房」という古本屋を経営している。
僕の職業を尋ねた彼女に小説を書いていると言うと彼女は僕を応援してくれる。
僕の誕生日が10月4日だと知ると彼女は僕に
薬屋で買った耳かきと爪きりをプレゼントしてくれた。

以上が僕の最近の日録であり、また交友録でもある。実録かどうか、それは云うまでもない。

小山清

太宰治の徒弟として知られています。
1952年(昭和27年)に『新潮』発表の「落穂拾ひ」などのほかに、『文學界』に発表した「小さな町」を発表。
私小説で作家としての地位を確立しました。

心に残る一文

仄聞(そくぶん)するところによると、ある老詩人が長い歳月をかけて執筆している日記は嘘の日記だそうである。僕はその話を聞いて、その人の孤独にふれる思いがした。

仄聞とは、少し耳にはいること。人づてやうわさなどで聞くこと。

誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。

僕は出来れば早く年をとってしまいたい。すこし位腰が曲がったって仕方がない。僕はそのときあるいは鶏の雛を売って生計を立てているかも知れない。けれども年寄というものは必ずしも世の中の不如意を託っているとは限らないものである。

 

まだ若い人で、粗末な服装をしていて、不精ひげを生やした顔を寒風にさらしていた。微醺(びくん)をおびていることもあった。

微醺とは、ほんのりと酒に酔うこと。

 

それでも散歩の途中で、野菊の咲いているのを見かけたりすると、ほっとして重荷の下りたような気持になる。その可憐な風情ふぜいが僕に、「お前も生きて行け。」と囁いてくれるのである。

 

 僕は外出から帰ってくると、門口の郵便箱をあけて見る。留守の間になにかいい便りが届いていはしまいかと思うのである。箱の中はいつも空しい。それでも僕はあけて見ずにはいられないのだ。

 

F君は僕に云ったのである。「稼いだらまた東京に帰ってきましょうね。」F君のそのなにげない言葉が、そのときの僕の結ぼれていた気持を、どんなに解き放してくれたことか。

 

けれどもその静かな生活のたたずまいの中にいる青年の無心なさまを眺めると、たとえば光りを浴び風にそよぐポプラの梢を仰いだときに僕の心の中でなにかがゆれるように、僕の心に伝わってくるものがある。

 

僕はうどんが煮える間を、米が炊ける間を大抵いつも詩集を繙く。小説なんかよりはこの方が勝手だから。こんな詩を見つけたりする。

夕日が傾き
村から日差しが消える時、
村から村へ暗がりを訴える
やさしい鐘の響が伝わってゆく。

まだ一つ、あの丘の上の鐘だけが
いつまでも黙っている。
だが今それは揺れ始める。
ああ、私のキルヒベルクの鐘が鳴っている。
        (マイヤア「鎮魂歌」高安国世訳)

この詩はまた僕の心を鎮めることにも役立つ。そして僕の心を遠く志したものに、はるかな希望に繋いでくれる。

 

その人のためになにかの役に立つということを抜きにして、僕達がお互いに必要とし合う間柄になれたなら、どんなにいいことだろう。

 

その人の生れつきの性質というものは、年をとっても損われずに残っていて、やはりその人をいちばんに伝えるものではないだろうか。殊に単純で素朴な人達の間では。僕にはお婆さんの顔が正直という徳で縁飾りをされているように見える。

 

僕はいまの人が忘れて顧みないような本をくりかえし読むのが好きだ。

 

僕にはとてもあの真似は出来ない。この俚諺はそのまま熨斗をつけて彼女に返上した方がいい。

登場文献

野鴨 (岩波文庫)

野鴨 (岩波文庫)

 
青年 (新潮文庫)

青年 (新潮文庫)

 

基督のまねび (1949年) (大思想選書)

基督のまねび (1949年) (大思想選書)

 

 

 

落穂拾ひ・聖アンデルセン (新潮文庫)

落穂拾ひ・聖アンデルセン (新潮文庫)